プロジェクトBABEL

Icon  project09 実録 レゴバベル

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「バベルの塔」展を一層楽しんでいただくため、さまざまな企画をお届けしている「プロジェクト・バベル」。展覧会の開幕を間近に控え、巨大プロジェクトをついにお披露目します。その名も「実録 レゴバベル」。ピーテル・ブリューゲル1世「バベルの塔」をレゴブロックで作り上げようという試みです。想像をはるかに超える“難工事”となった制作過程から、我々はまたしてもブリューゲルの偉大さに気づかされるのでした。そして、設計担当者が導き出した「バベルの塔」をめぐる新説とは…!?


2016年11月、深まる秋の気配をよそに、東京大学駒場キャンパスで密かにプロジェクトはスタートした。協力してくれたのは、「東大LEGO部」。創部10年の歴史の中で、安田講堂やスーパーカミオカンデなどの大作を築き上げてきたアマチュアレゴ界きっての業師たちだ。
メインで企画を担ってくれたのは同部の1年生部員、高橋秀人(たかはし・しゅうと)君。眼鏡の奥に、巨大な塔を攻略せんとする野心がキラリと光る。

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東大LEGO部の高橋君

設計作業

途方もなく高度な挑戦

高橋君が見積もった制作期間は実に約4カ月。そのほとんどが設計にかかる時間だ。
初期の設計段階で早くもレゴバベルのサイズが導き出された。地面部分も含めた一辺が102cm、高さ115cmという我々の予想を超える大きさだ。高橋君としては、ブリューゲルの細かな描写を少しでも忠実に再現したい。一方で、レゴパーツ独特の仕様―「プレート型のパーツを3枚積み重ねるとブロック一つと同じ高さになる」「2ポッチ分の距離がプレート型のパーツを5枚積み重ねた高さと同じになる」など―から逆算して「バベルの塔」の造形を再現しようとすると、必然的に全体サイズが大きくなるというわけだ。限られた条件・制約の中でいかに作品を表現していくかがレゴの最大の魅力でもある。

高橋君はキャンパスからほど近い下宿で、専用の設計ソフトや数学的な計算を駆使しながら「何百時間もかけて」ひとり構想を設計図面に落とし込んでいった。円形の塔を四角いレゴで表現していくだけでも難儀だが、渦を巻きながら天空へと伸びていく「バベルの塔」は一層事態をややこしくする。
外周の回廊を側面から見れば、徐々に右上に高さが上がっていく。同時に、回廊は中心に向かって半径を狭めながら進む。これをパーツの制約の中で計算していかなくてはならないという途方もない作業に高橋君は挑んだのだ。文字通り、目が回る。

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設計には専用のソフトを使う

設計が複雑すぎるためにソフトが停止すること数十回。部員の私物PCではスペックが不足したため、部で新たにハイスペックなPCを組み立てた。当初の予定から1カ月遅れた12月下旬、設計図がほぼ完成した。

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完成予想図 © UTLC

パーツ発注

レゴ界のAmazonを駆使

高さ1mを超える巨大な作品であるため、重量もそれなりにかさむ。外側から見えない部分でしっかりと重さを支えないといけないのだ。一般的なブロックパーツに加え、テクニックシリーズと呼ばれる、角度をつけて、しっかりと接続できるパーツを駆使して躯体の強度を上げていった。完成した塔の重さはなんとおよそ90kg!「レゴも積もれば塔となる」、とはよく言ったものだ。

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驚きの内部構造 © UTLC

数も種類も膨大なパーツを、日本国内だけで賄うのは不可能だ。東大LEGO部員たちは手分けして、“レゴ界のAmazon”と称される「BrickLink」というサイトで世界中からパーツを取り寄せた。ドイツ、ノルウェー、ポルトガル、チェコ、ベルギー…発注だけでも大仕事だ。パーツが揃うまで約1カ月。特にブリューゲルが描いたアーチ部分を表現するためのパーツの中には、流通量が少ないものもあり4つの店舗からかき集める形となった。後日、組み立て中に急遽取り寄せたものも含め、使用した総パーツ数はなんと約46,000!ただでさえ手狭な東大LEGO部の部室は、パーツの山で足の踏み場を失っていった。

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部室にはパーツが溢れている

組み立て

力を合わせて塔を天空へ

2017年2月下旬、いよいよ組み立て作業が始まった。高橋君の設計により、円錐形の塔は上層部1と下層部4の計5つの構造体に分けられている。さらにそれらを細分化して、それぞれを部員が設計図を見ながら組み立てていった。

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レゴバベルの初期構造案 ©UTLC

部員たちは好きなときに部室にふらりと現れ、自分のタイミングで帰っていく。「組み立て作業は地味です。あまり画になりませんよ」と笑う高橋君の言葉に偽りはなく、「1×3ブロックどこだ」「はーい、ここに」といった声を交わしながら、各人が黙々と作業をこなしていく。
組み立てが始まってからおよそ2週間。部員たちの手によって、バラバラだった46,000のパーツそれぞれに役割が与えられていき、部室の「足の踏み場」も同時に回復されていった。

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制作風景

3月中旬、いよいよ完成が近づく。まず下層部の4つの構造体が合体された。強力な内部構造のおかげで、少し押したくらいではびくともしない。思い通りの強度に高橋君も満足げな表情を浮かべる。

そして最後の難関、上層部パーツを下層部に乗せる工程が始まった。

作業は3人がかり。高橋君、2年生部長の金子君、1年生の石井君で最上部パーツを持ち上げる。瞬間、乾いた音とともにいくつかのパーツが決壊し、散乱した。取材クルーは思わず顔をゆがめてしまう。
一筋縄ではいかないレゴバベルの建設…壊れた部分の修繕と補強を施して、2度目の合体に挑む。今度はうまく持ち上がった。上からそろりそろりと土台に向け下ろしていく。

―はまらない。

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合体の様子を見守る取材クルー

撮影用の照明を借りた高橋君が、外周面のレゴの隙間から、鍵師のようにすかさず内部をチェックする。PC上の設計図と見比べながら分析を繰り返した。
「おれの組み立てミスだ。ごめん」と高橋君。「仕方ないよ」と石井君が励ます。過去様々な作品を手がけてきた彼らに、多くの言葉は必要ない。東大LEGO部員同士の絆の強さに感動するクルーを横目に、黙々と対応に取り組む高橋君。失敗の原因はわかったが、組み上がった躯体の内部をいじらないと修正が効かない。本来なら一旦解体して組み立て直すところだが、天はバベルを見放さなかった。
たまたま自動車設備の経験がある高橋君は「車の配線をいじるのと同じ要領です」といって下から躯体に潜り込み、見えない場所も手探りでパーツをはめ込んでいった。修繕完了。

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まるでスタンド使いである

確かな安定感とともに床を離れた最上部パーツを、取材クルーが固唾をのんで見守る。再び3人は、ゆっくりとパーツを下ろしていく。
少しズレたか。「こっちを持ち上げてください。」「で、ちょっと回して。そう。」

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緊張の瞬間。固唾をのんで見守るクルー

―――はまった!

苦節4カ月、ついにレゴによる「バベルの塔」が出来上がった。純白のパーツが映える、美しく気高い「レゴバベル」の竣工だ。ちなみに、作品にあとから着色するのはレゴ界の“ご法度”。特殊なパーツをいくつも揃えないといけなかったこのプロジェクトでは、塔を何色にするかの選択肢が多くなかったが、白を選択したのは間違いではなかったと誰もが確信した。

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美しい「ホワイトバベル」

大人げなくはしゃぐ取材クルーとは対照的に、完成したレゴバベルを前に高橋君は静かに微笑むのみであった。彼らに多くの言葉は必要ない。職人のように黙々とレゴバベルを組み上げていく彼らの姿は、まさにブリューゲルが絵画の中で描いた、目標に向かって協力する人々の姿に重なるものがある。
レゴで再現する「バベルの塔」プロジェクト。クールな高橋君の視線は、既に次の挑戦を向いているようである。

(実録 レゴバベル、完)

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興奮気味の取材クルー
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東大LEGO部のみなさん、ありがとうございました!

編集後記

ブリューゲルによって描かれた2次元の絵を、立体の塔に仕立てていった高橋君の設計は見事でした。同時に、これを実現できたのは、ブリューゲルの作品が、3次元化に堪えられるほど精密であることの裏返しでもあります。見本となる実際の塔があったわけでもなく、ピラミッドをドローンで撮影することもできなかった時代に、上空からの鳥瞰的な視点で画面上に奥行きと高さをもたらしたブリューゲルの技術に、改めて感服します。

このプロジェクトでは、「バベルの塔」をめぐっていくつかの箇所で「解釈」を要する場面がありました。まず高橋君がこだわったのは塔の基本構造。二重らせん構造になっているのではないか、というのです。回廊の傾斜を見ると、そうとも言えない気もしますが…「絵では見えない裏側も含めて回廊を辿っていくと、この傾斜では一つ上の回廊ではなく、そのもう一つ上の回廊につながっているんです。つまり、絵には描かれていないもう一つのらせんが、塔の裏側を起点に発生しています。僕は絶対に二重らせん構造説をとります」と自信を持っている様子。

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高橋君の二重らせん論

次に高橋君が注目したのは、らせんの向き。下の方では塔の外側が反時計回りに渦を巻いているのに対し(図中、黄色の線)、それより内側とみられる最上部のらせんは逆回りに見える(同、ピンク色の線)というのです。外側と内側はそれぞれ逆向きのらせん構造になっていると解釈した高橋君は、その設計をレゴバベルにも忠実に反映しました。また、図中緑色の点線で囲んだあたりは、らせん状になっておらず、講堂や広間になっていた可能性があるとして、これも設計に反映されています。

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アーチの向きに注目

さらに大胆な説も。画面左に見える川は塔に流れ込み、画面右下から流れ出している…というのはこれまでも唱えた人がいましたが、高橋君によると、この川は資材を載せた船が通る運河だというのです。そして、運河で運んだ資材を前述の内側のらせんに沿って馬車で運んでいたのではないか、と。これによって、上記のような内側が反対回りのらせんで成り立っている説が補強されるというのです。
恐るべき東大生の観察眼。取材クルー一同、メモをとるのに必死だったことは言うまでもありません。

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塔の内部では別の回路で資材が運ばれている?

立体を設計する上で見えてきた「バベルの塔」の様々な構造。ブリューゲルがこの説を聞いたら果たして何と答えるでしょうか。日本の頭脳をも悩ませたブリューゲルの「バベルの塔」。皆さんも、いろいろな想像を巡らせながら、会場で「バベルの塔」をご鑑賞ください。
※文中記載の学年は当時のもの。

「レゴバベル」は大阪・中之島のフェスティバルタワー1階に、10月15日(日)まで展示しています。
※展示期間、場所は変更となる場合がございます。予めご了承ください。

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